2026/10/05 13:33
Small Factory Ringは、ジュエリーの中でどこに位置するブランドなのだろう。
最近、そんなことを改めて考えていました。
価格帯、買う人、販売される場所、ファッションとの距離、アートとの距離、そして作られ方。いくつかの軸でジュエリーやアクセサリーの世界を眺めてみると、Small Factory Ringは少し変わった場所にいるように思います
まず、作られ方から考えてみる
Small Factory Ringは、いわゆるジュエリー工房で作られているわけではありません。
リングや金属のヘッドを製作しているのは、東京・大田区の町工場、矢澤製作所です。
旋盤などの工作機械を使い、金属を削り出して部品を作る。そこにあるのは、一般的なジュエリー制作でイメージする彫金とは少し違う風景です。
Small Factory Ringを始めたきっかけも、この町工場との出会いでした。
もともと私は現代美術の作品を制作していて、その後ジュエリーを作るようになりました。一方、矢澤製作所には、長く培ってきた金属加工の技術と設備があります。
その二つを組み合わせて、「町工場の技術で何が作れるだろう」と考えたところから、Small Factory Ringは始まっています。
だから私は、自分で金属を削ってリングを一つずつ完成させているわけではありません。
形を考え、図面を作り、町工場と加工方法を検討し、必要に応じて別の工場や職人の技術を組み合わせて、一つの商品にしていく。
そう考えると、Small Factory Ringは「誰が手を動かして作ったか」だけでは、少し説明しにくいジュエリーです。
ジュエリーというより、プロダクトに近い
では、Small Factory Ringは何に近いのか。
私は、ジュエリーの中では少しプロダクト寄りなのだと思います。
例えば椅子や照明、文房具などのプロダクトは、デザイナー本人が工場ですべてを作るわけではありません。
デザイナーが形や構造を考え、図面を作り、それを実現できる工場や加工方法を選ぶ。試作をして、修正して、量産できる形へ持っていく。
Small Factory Ringの作り方も、かなりこれに近いものです。
リングとヘッドをネジで交換できる構造も、最初から「ジュエリーらしい形」を考えて生まれたものではありません。
町工場にある機械や加工技術を見ながら、それを身につけるものへ置き換えたら何ができるだろう、と考える中でできていきました。
そのため、完成したリングだけを見るよりも、部品や図面、加工途中の姿を見た方が、このジュエリーが何なのか分かりやすいのかもしれません。
でも、プロダクトだけでもない
作られ方だけを見ると、Small Factory Ringはかなりプロダクトに近い。
けれど、自分ではこれを単純な「プロダクトデザイン」とも思っていません。
Small Factory Ringを作るとき、私は使いやすさや量産性だけを考えているわけではないからです。
町工場で使われている機械や加工方法、ネジや金属部品の構造。そういうものを見ていると、それ自体がとても面白く感じられます。
普通なら製品の裏側に隠れてしまうものを、できるだけそのまま表に出してみたい。
ネジでヘッドを取り付ける構造も、金属を削った跡も、部品らしい形も、なるべく隠さない。
それらをジュエリーの中へ持ってきたとき、それまでとは少し違った見え方をすることがあります。
私にとっては、その「見え方が変わること」も、Small Factory Ringを作る大きな理由のひとつです。
だから、Small Factory Ringでは、完成した形だけではなく、
どんな技術を使うのか。
誰と作るのか。
どの工場で作るのか。
どういう工程を組み合わせるのか。
という、ものが生まれるまでの仕組みそのものもデザインの一部になっています。
生産システムはプロダクト、意味の作られ方は作品
こうして改めて考えてみると、Small Factory Ringには二つの性格があるように思います。
作る方法だけを見れば、かなりプロダクトに近い。
図面を描き、加工方法を考え、工場と相談し、同じ精度で作ることのできる部品にしていく。複数の技術や工程を組み合わせて、一つの製品として成立させる。
けれど、なぜその方法を選ぶのかというところまで考えると、少し違ってきます。
私が面白いと思っているのは、単に効率よくジュエリーを作ることではありません。
町工場の機械で作られた部品が、指にはめた途端にリングになること。
工業製品では当たり前に使われているネジが、ヘッドを交換するための仕組みになること。
普段は完成品の裏側に隠れている技術や構造が、ジュエリーの表側に出てくること。
そうした、本来は別の場所にあったものの意味が少しずれる瞬間に興味があります。
だからSmall Factory Ringについて考えていると、
生産システムはプロダクト、意味の作られ方は作品。
という言い方が、今のところ一番しっくりきます。
作家が「物」だけを作るのではなく、物が生まれるシステムまでデザインする。
Small Factory Ringは、そういう作り方をしているジュエリーなのだと思います。
では、ジュエリーの中ではどこにいるのか
ここまで作られ方について考えてきましたが、今度は少し視点を引いて、ジュエリーやアクセサリー全体の中でSmall Factory Ringがどこにいるのかを考えてみます。
ジュエリーの世界は、思っている以上に広いものです。
数千円で買えるアクセサリーから、何十万円、何百万円というハイジュエリーまである。
百貨店で売られるものもあれば、セレクトショップ、ギャラリー、ハンドメイドマーケット、作家の展示会、オンラインだけで販売されるものもあります。
そして価格だけでなく、ファッションとして選ばれるもの、素材や宝石の価値を楽しむもの、作家の表現として見るもの、プロダクトデザインとして面白いものなど、同じ「身につけるもの」でも、その背景にある文化はかなり違います。
そうしたものを一枚の地図のように並べてみると、Small Factory Ringは、どこか一つの領域の真ん中にいるというより、いくつかの領域の境目にいるように見えてきます。
価格だけを見れば、いわゆるハイジュエリーではありません。
けれど、流行に合わせてシーズンごとに消費されるファッションアクセサリーとも少し違う。
作家が一点ずつ手で作るジュエリーでもなければ、大きなメーカーが企画して大量に流通させるプロダクトでもない。
販売される場所も、百貨店だけ、ギャラリーだけ、オンラインだけ、と一つには決まっていません。
こうして一つずつ見ていくと、Small Factory Ringは分類しにくい。
でも、今回あらためて考えてみて、この「分類しにくさ」は欠点ではなく、むしろSmall Factory Ringの性格そのものなのではないかと思いました。
プロダクトと作品。
工業と装身具。
デザインと工芸。
日常的に使うものと、少し考えて見るもの。
そのどれか一方ではなく、その間を行ったり来たりしている。
Small Factory Ringは、そういう場所にいるジュエリーなのだと思います。
誰がSmall Factory Ringを選んでいるのか
もう一つ、ブランドの位置を考えるうえで面白いのが、実際にどんな人がSmall Factory Ringを選んでいるのか、ということです。
これまで販売を続けてきて感じるのは、形や素材だけでなく、その構造や作られ方まで面白がってくださる方が多いことです。
展示会などでは、リングを手に取って裏側を見たり、ヘッドを外してネジを確認したり、「これはどうやって作っているんですか?」と聞かれることもよくあります。
そして意外なのが、普段はあまりジュエリーを身につけない、という方が少なくないことです。
ジュエリーを探していてSmall Factory Ringに辿り着いたというより、形や構造、素材、あるいは「これは何だろう」という好奇心から興味を持ち、結果として身につけてくださっている。
そんな方もいるように思います。
もちろん、石が好きだったり、色や形を気に入ったり、選ぶ理由は人それぞれです。
けれど、作り続けるうちに見えてきたのは、Small Factory Ringが、ジュエリーがもともと好きな人だけに届いているわけではない、ということでした。
作る側があらかじめ「こういう人に届けよう」と決めたというより、この形や構造、作られ方に興味を持った人たちが、それぞれの入口から見つけてくれた。
私には、その方がSmall Factory Ringらしいように思えます。
では、Small Factory Ringは何なのだろう
最初の問いに戻ります。
Small Factory Ringは、ジュエリーの中でどこにいるのだろう。
ここまで考えてみても、結局、きれいな名前をつけることはできませんでした。
ファッションジュエリーとも少し違う。
いわゆるハンドメイドジュエリーとも違う。
かといって、作品としてだけ存在するものでもありません。
同じものを繰り返し作ることができ、商品として販売され、実際に身につけて使うことができる。
その一方で、私にとっては、形だけではなく、どう作るか、誰と作るか、どんな技術を使うか、そしてどう届けるかまで含めて制作です。
以前、このことを考えていて、ひとつ自分の中でしっくりくる言葉が浮かびました。
生産システムはプロダクト、意味の作られ方は作品。
今のところ、これがSmall Factory Ringを一番よく表しているような気がしています。
もちろん、これはブランドのキャッチコピーにしようという話ではありません。
自分が作っているものを改めて眺めてみたら、そういう場所に立っていた、というだけです。
Small Factory Ringを始めたときから、ここを目指していたわけでもありません。
町工場と出会い、作れるものを考え、試作し、販売し、いろいろな人に手に取ってもらう。
それを繰り返しているうちに、いつの間にか今の場所に来ていました。
そして、まだ少しずつ動いているのだと思います。
だから何年か後に同じことを考えたら、また違う答えになっているかもしれません。
それも含めて、これからも作りながら考えていこうと思います。
